石井流リベラルアーツの時間

リベラルアーツの視点

P . Fドラッカーは「マネジメントはリベラルアーツである」とその著書のなかで語っています。
情報が錯そうする現代に、複数の視点からものごとをみて、ぶれない心で大きな決断をするためには、ビジネススキルや知識の習得にとどまらず、ものごとの本質をとらえて思考するリベラルアーツ(教養)の視点が必要であると言われます。

茶の湯に学ぶ5つのリベラルアーツ講座

茶の湯は世の中が混迷を深めた戦国時代に武士の嗜みとして集大成しました。近代になっても名経営者たちがこぞって嗜んできた「茶の湯」の世界とは、禅や中国古典、書画や和歌の素養が総動員された奥深い世界です。
ここではお茶の作法を学ぶのではなく、お茶の心を学ぶことによって「考え方、対応力、交渉力、ふるまい・もてなし」など仕事や人生に役立つ知恵を以下の5つのテーマから学びます。

知識を行動に変える

私の茶の湯との出会いは、大阪で開催されたビジネスマン向け「茶の湯セミナー」。
講師は京都在住のカナダ人、ジャックコンベリー宗好先生です。その日ジャックさんは京都からわざわざ、一畳分のたたみと禅語を書いた短冊、庭に咲いていた花を持ってこられ、会議室に到着するや蛍光灯を消し、花を飾って、陰翳のある茶室風の空間をしつらえたのです。日本人が忘れていた日本の美意識でした。
当時ホテルの仕事をしていた私は、とても感銘をうけ、茶道を知ればホスピタリティを知識ではなく、行動にできるのではと思いました。
その後、ジャックさんのもとで10年間茶道を学び、ヨーロッパやアメリカから日本の文化を求めてくる海外の友人たちとのたくさんの出会いも経験できました。
あいまいな事柄も、英語に翻訳せざるをえない場面では、なぜそうするのか、自分の頭で考えて、相手が理解できるように伝えなくてはなりません。
いくら心で思っても、相手に伝わらなければ独り言になってしまいます。

この時の初心を忘れずホスピタリティマインドを茶の湯を通じて、
伝えていきたいと思っています。

京都 聖徳庵 
ジャックコンベリー宗好先生
http://www.shotoku-an.org/

茶の湯 
千利休の「四規七則(しきしちそく)」

ストイックに茶の湯を追求した利休が、もっとも大切だと考えた茶道のエッセンスです。
「茶は服のよきように」とは、お茶はおいしく点てなさいという意味ですが、相手の状況によってお茶の味や好みは変わります。
戦国時代の秀吉と石田三成の有名な逸話に「三献の茶」があります。ある日、鷹狩にでかけた秀吉がなじみの寺で休憩をとったときのこと。寺の小姓がお茶を運んできました。最初はぬるめのお茶をたっぷりと。喉がカラカラだった秀吉は一気に飲み干して、さらにもう一杯所望すると今度はさきほどより熱くしたお茶をすくなめに持ってきました。試しに三杯目を所望すると、小さな茶碗に熱いお茶を持ってきたというのです。お茶を入れたのはのちの石田三成で、これがきっかけで秀吉の家来になりました。

「四規七則」は一見あたりまえのことばかりですが、目の前の状況に応じて、対応を変えることの大切さを教えてくれます。これはまた、ビジネスの現場でも使える実践的な知恵です。

「四規七則」とは

ある日、利休の弟子が「茶の湯とはどのようなものですか」と聞いたときの答えが「七則」です。弟子は「それくらいのことは私もよく知っています」といい、「もしこれができたら、私はあなたの弟子になりましょう」と利休がいったという有名な逸話があります。

四規 和敬清寂

お互いに心を開いて仲良く
お互いに敬いあう
目に見えるだけの清らかさではなく、心の中も清らかに
どんなときにも動じない心

一服いかがですか

七則

  • 茶は服のよきように ~心をこめる~

    「お茶は心をこめて、おいしく点てましょう」という意味です。「服(ふく)のよきように」というのは、舌の先でおいしいと感じることだけでなく、一生懸命に点てたお茶を客がそのきの気持ちも味わっていただくという、主と客との心の一体感を意味しています。

  • 炭は湯の沸くように ~本質を見極める~

    炭に火をつけさえすれば必ずお湯がわくとは限りません。湯がよくわくように火をおこすには、上手な炭のつぎ方があります。しかし、そのつぎ方を形式だけでのみこんだのでは火はつきません。本質をよく見極めることが大切です。

  • 夏は涼しく冬は暖かに ~季節感をもつ~

    茶道では季節感を大事にし、表現します。夏ならば床に「涼一味」などのことばをかけたり、冬ならば蒸したての温かいお菓子を出すなど、自然の中に自分をとけこませるような工夫をします。

  • 花は野にあるように ~いのちを尊ぶ~

    「花は自然に入れなさい」ということですが、「自然そのままに」再現するというのではなく、一輪の花に、野に咲く花の美しさと自然から与えられたいのちの尊さを盛りこもうとすることに真の意味があります。

  • 刻限は早めに ~心にゆとりを持つ~

    「時間はゆとりを持って早めに」ということですが、ゆとりとは時間を尊重することです。自分がゆったりした気持になるだけでなく、相手の時間を大切にすることにもなります。そのときはじめて、主と客が心を開いて向かいあうことができます。

  • 降らずとも雨の用意 ~やわらかい心をもつ~

    「どんなときにも落ちついて行動できる心の準備と実際の用意をいつもすること」が茶道をする人の心がけであることをいおうとしています。どんなときにも「適切に場に応じられる」自由で素直な心を持つことが大切です。

  • 相客に心せよ ~たがいに尊重しあう~

    「相客」というのは、いっしょに客になった人たちのことです。正客の座にすわっている人も末客の席にいる人も、おたがいを尊重しあい、楽しいひとときを過ごすようにしなさいと利休は説いています。

※四規七則 参照 裏千家ホームページ「お茶の心ってなんだろう」

photo by kaoru chujo